海に没したかと思いきや、またも宇宙に戻された。 衝撃を予見してきつく閉じていた目を開いた紀乃は、プリーツスカートが無重力で翻ったのを視界の隅で捉えた。 あのまま、ワン・ダ・バの真上にでも墜落するかと思っていたのだが。もしかして時間が巻き戻ったのだろうか、だと したら怖すぎる。そんなことを考えながら、紀乃はどちらが上か下かを定めることにした。頭の下には、前回と同様に 惑星が浮かんでいる。無数の恒星が発する光で成された星の運河を背負った、赤い海と黄土の大地を持つ奇妙な 惑星だった。青い海に緑の大地の地球を見慣れているから、そう感じるだけなのだろうが。 宇宙空間での距離感は皆無だ。並列空間という似て非なる世界に放り込まれたせいで、サイコキネシスに伴った 空間把握能力が思うように働かない。思い出してみれば、あれは空気抵抗ありきで使っていた力だった。だから、 空気抵抗が皆無な上に重力もない場所では、空中で水泳をするようなものであり、掴めるものすらも掴めない。かと いって、ただぼんやりと宇宙に浮かんでいるわけにはいかない。今、自分がどこにいて、何を見ているのかをきちんと 把握しなければ、自分という存在すら見失ってしまうかもしれないからだ。 赤い海と黄土の大地の惑星は、二つの衛星を帯び、公転周期を緩やかに辿っていた。比較対象があれば、この 惑星がどんな大きさなのかが解りそうなものだが、生憎、そんなものはない。天文学的な知識さえあれば、背景の 恒星の位置で多少の見当は付いたのだろうが、星座を覚えるだけで精一杯だった中学生には無理な話だ。紀乃は 上下を反転し、とりあえず、赤い大地と黄土の大地の惑星を見下ろした。分厚い大気に包まれた地表上には薄い 雲が流れ、至るところでオーロラらしき光の帯が漂っていた。雲とオーロラの合間には時折雷光が駆け抜け、瞬く。 地球に比べると地軸が大きく傾いているのか、極冠の位置が右斜めに傾いている。太陽の数百万倍はありそうな 巨大恒星が遙か彼方で膨大なエネルギーを放出していて、放射線の風が紀乃の体を通り抜けていった。 「黄金色の硫黄の大地」 かつて言葉をゾゾから聞かされた言葉をなぞりながら、紀乃は赤い惑星を見つめる。 「赤茶けた酸の海」 もしや、この惑星は。 「虹色のオーロラが輝く星」 全てが当て嵌まるこの星は、惑星ニルァ・イ・クァヌアイだというだろうか。紀乃は乾いた喉に唾を飲み下してから、 惑星に近付こうと体を傾けた。すると、冷たく硬い手に腕を掴まれて引っ張り返された。何事かと振り向くと、そこには 地球の衛星軌道上に吹っ飛んだはずの竜ヶ崎がいた。紀乃はぎょっとして竜ヶ崎の手を振り払い、遠のく。 「な、なんでここにいるの!?」 「それは私が聞きたいのだがね」 竜ヶ崎は紀乃の腕を掴んでいた手をこれ見よがしに擦ってから、腕を組んだ。 「ワン・ダ・バが墜落して間もなく、私はお前と膨大な距離と空間を超越してしまったようなのだ。原因は恐らく、お前が 身に付けているヴィ・ジュルにあるのだろう。私は少々の時間を稼ぐために、お前を連れて並列空間に跳躍したが、 これほどの距離と空間を飛び越えられるほどのエネルギーは持ち合わせていないのだよ。巨大化していたので あればいざ知らず、今の私はお前達から無駄な抵抗を受けたために、やっとの思いで掻き集めた生体情報も生体 組織も何もかも失っている。全く、地球から離れてどうするのだね。並列空間といえども、あまり距離が空きすぎると 通常空間に戻りづらくなるではないか」 「私に聞かれても困るんだけど」 「では、他に誰がいるのだね」 竜ヶ崎が肩を竦めてみせたので、紀乃は口籠もった。それはそうなのだが、少なくともこれは自分の意志ではない。 第一、惑星ニルァ・イ・クァヌアイがどこにあるかなんて知らないし、知っていたとしても来る理由がない。ゾゾの 故郷を目にしておきたいという気持ちも少しはあるが、明確な願望として抱くほどではないし、こんな状況でわざわざ 竜ヶ崎の執念を叶えてやるほどお人好しでもない。だとすれば、一体。 「もしかして、ワン?」 紀乃がセーラー服の上から勾玉に触れると、かすかな熱が手のひらに染み込んだ。 「そうだな、それが一番妥当な結論かもしれん。奴の演算能力とエネルギーであれば、十二分に可能だ」 竜ヶ崎は紀乃の背後に浮かび、赤い惑星を見下ろした。 「とすると、ここはニルァ・イ・クァヌアイなのか」 「たぶん。ゾゾが話してくれたのと似ているし。でも、なんで?」 紀乃は竜ヶ崎に対する警戒心を緩めず、赤い惑星に向き直った。玉虫色の羽衣のように色彩を変化させながら 漂っていたオーロラに、不意に閃光が走った。直後、惑星の地表上で爆発が発生した。半球状の白い光は一瞬 にして赤い海を蒸発させ、濃密な雲が大気を濁す。黄土の大地は内側から割かれ、見覚えのある長い首が重々しく 持ち上がった。赤黒い表皮に大きな単眼を持つ、首長竜に酷似した宇宙怪獣戦艦だった。それは一匹や二匹では なく、至るところから宇宙怪獣戦艦は現れた。彼らは皆、電磁波に乗せた鳴き声を張り上げている。クジラの歌声にも 似た声は苦痛と悲哀に満ちており、勾玉を通じて届いた思念に紀乃の精神も揺さぶられた。言葉を使わないから こそ、人類を容易く超越した精神構造を持つ生き物の感情は多彩で、深く、重たい。無意識に流れ出した涙を宙に 浮かばせながら、紀乃は宇宙怪獣戦艦達が口々に語る思いを代弁した。 「宇宙怪獣戦艦達は取り戻しに来たんだよ。ずっとずっと昔にニルァ・イ・クァヌアイに落ちた、子供の死骸を。でも、 その子はもういなかった。分解されて、生体組織は利用し尽くされて、生体情報も改変されていたから。だから、皆、 凄く怒っている。イリ・チ人を一人も逃さない、ナガームンも許さない、誰も彼も滅ぼしてやるって」 「だろうな」 竜ヶ崎は笑いもせず、紀乃の強張った横顔を見据えた。紀乃は頬を拭い、竜ヶ崎に向く。 「だけど、これは過去なの、それとも遠い未来なの?」 「私には解らんよ。ニルァ・イ・クァヌアイの歴史についての記憶は多少は得ているが、どれもこれも上っ面の記憶 だけなのでね。生体分裂体が読み取れる記憶は本体を越えてはならぬように設定されているし、ゾゾはそうした 記憶には特に厳重な封印を施していたのだからね。私はイリ・チ人の体ではあるが、イリ・チ人ではない」 「ああ、そっか」 「だが、これだけは痛いほどに解る」 竜ヶ崎は地表が割れてマグマが噴出した赤い惑星を睨み、単眼を細めた。 「思うように生きられぬ無念さと、肉体に精神までもが戒められる歯痒さはな」 「それ、あんたの言うことじゃない。私達が言うべきことだよ」 「大して変わらんだろうに」 紀乃の文句を軽く流し、竜ヶ崎は致命的な損傷を負った赤い惑星を眺め続けた。砕けた大地の破片が大気圏を 脱し、衛生軌道上には無数の岩が巡る。宇宙怪獣戦艦達が放った砲撃が二つの衛星を破壊すると流星雨となって 落下し、濁った海に恐ろしく高い津波を生んだ。暗黒の星空が歪むと空間の穴から次々に宇宙怪獣戦艦達が現れ、 惑星ニルァ・イ・クァヌアイに降下していく。彼らは口々に語る。同族を辱めた報いを受けよ。我らヤトゥ・マ・ギーは お前達を根絶やしにするまでは歩みを止めぬ。いざ、いざ、いざ。 宇宙怪獣戦艦の戦士達が引き起こした戦いは、紀乃と竜ヶ崎が見守る中、何百万年と続いたようだった。二人が 存在している並列空間は戦況と共に移り変わり、惑星ニルァ・イ・クァヌアイが砕け散って星屑となると、次は全く別の 星系に飛ばされた。冷え切った岩石惑星で、地表には珪素生物で成したドームが連なっていてイリ・チ人の手が 及んでいるのは明らかだった。そこにも宇宙怪獣戦艦の戦士達は現れ、巨体に物を言わせた白兵戦で呆気なく その岩石惑星を破壊した。その次に飛ばされた先は木星に似通っているガス惑星の衛星軌道上で、ガス惑星のガスを 摂取して進化してきた宇宙生物を生体改造した衛星基地にイリ・チ人がおり、そこにもまた宇宙怪獣戦艦の戦士達は 出現した。戦いは一方的で、イリ・チ人は応戦する前に全滅した。何度となく続く戦いの中で、時折自前の宇宙 怪獣戦艦を利用して応戦しようとするイリ・チ人もいたが、イリ・チ人側の宇宙怪獣戦艦は命令には従わなかった。 それどころか、反逆してイリ・チ人の軍勢に突っ込んでいった。数多のイリ・チ人が惨殺され、数多の宇宙怪獣戦艦が 息絶え、数多の惑星が死体に覆われて血の運河が地表を流れた。 紀乃は、終わりの見えない戦いの行方を見つめ続けた。竜ヶ崎は何も語らず、単眼を見開いているだけだった。 侵略国家ナガームンが制圧した星の数だけ戦争が起こり、その惑星で繁栄していた数だけイリ・チ人は殺された。 無遠慮に欲望を満たしていた種族の末路らしい展開が、気分の良いものではない。この中にゾゾがいないことを 心から安堵する一方で、見ず知らずの異星人達が滅ぶ様を目の当たりにしながらも自分が抱いた感想の俗っぽさに 吐き気がした。ワン・ダ・バが伝えたいことは、これだけではないはずなのに。一連の戦いの中で、彼はその存在を 認められながらも意志は汲んでもらえずにいた。だから、直に伝えようとしているのだ。それなのに、どうして自分は 額面通りにしか受け取れないのだろうか。紀乃は祈るように組んだ手の中で、勾玉をきつく押さえ付けた。 勾玉は、奇妙に冷たかった。 橋の袂では、やけに体格の大きな虚無僧が尺八を吹いている。 小雨の降る中、傘を差した町人達が橋を行き来している。着物を頭に被っただけの男や何も被っていない子供達 は駆け足になり、虚無僧の前を通り過ぎていく。土を均しただけの歩道には泥溜まりが出来ていて、大八車による わだちに水が溜まっている。草履が擦れる音が幾重にも重なり、柳の枝が川面に垂れ下がり、水量が増した川では 小舟がぎいぎいと揺れている。橋に程近い店の軒先で、紀乃は雨宿りしていた。宇宙の旅が終わったかと思えば、 今度は過去の日本に飛ばされたらしい。紀乃の隣に立つ竜ヶ崎は過去の自分を見るのが気恥ずかしいらしく、視線を 上げたかと思えば逸らしていた。虚無僧の演奏は不安定で、音が詰まったかと思うと甲高く裏返った。 「下手くそ」 紀乃が毒突くと、竜ヶ崎は顔を背けた。 「仕方あるまい。あの手のものは、人類の生体構造に合わせて作られているのだからな」 二人の前を、雨具を被った女性が足早に通り過ぎていった。その腕の中では赤子がしっかりと抱えられ、後れ毛が 目立つ女性はひどく窶れていたが形相が殺気立っていた。見るからに怪しい虚無僧に一瞥をくれたが、そのまま 橋を渡っていこうとする。虚無僧は尺八を止めると、その女性に声を掛けた。 「もし、そこの御婦人」 「……何ぞ」 擦り切れた着物を着た女性は、殺気立った目で虚無僧を睨んだ。 「そなたは、その子をいかがなさるのか」 虚無僧は女性に近付こうとするが、女性は後退る。 「こないな子、どうもせん! あんたには関係ねぇ!」 「拙僧に見せてはくれぬか」 「ああ見ろ見ろ、こんなんどないなっても構わん!」 女性は赤子を虚無僧に投げ付けると、振り返りもせずに走り去った。虚無僧は難なく赤子を受け止めると、天蓋を 曲げて赤子を覗き込み、小さく声を漏らしてから橋の袂まで引き返した。石垣を降りて橋の下に入ったので、紀乃も 雨の中に出た。雨粒が肩を叩いても濡れず、足音もせず足跡も付かないのは自分でも不可解だが、そういうもの なのだから仕方ない。竜ヶ崎はこの先の展開を知っているからか、面倒そうだったが紀乃に続いた。虚無僧は巨躯 を折り曲げて橋の下に入ると、薄暗い中で雨宿りしている尼僧に赤子を差し出した。 「ハツ」 「何ね、ゼン」 尼僧、竜ヶ崎ハツは編み笠を上げ、虚無僧、ゼンが差し出した赤子を見た途端に手を合わせた。 「突然変異体だ。だが、生体反応はない」 ゼンは橋の下に入り、ハツの傍に腰を下ろした。天蓋を外して傍らに置くと、赤子を包む布を剥がした。生まれて 数日が経過しているであろう赤子は既に息をしておらず、顔も土気色に変わりつつあった。一見しただけでは普通の 赤子に見えるが、布に隠されている下半身はそうではなかった。下半身は両足が癒着して魚に酷似した外見に 変化しており、両手の指の間には薄い水掻きが張り、肋骨にはエラのような切れ目が入っている。ゼンは赤子に 尻尾の尖端を触れさせて生体情報を採取し、突然変異の原因を探った。 「この幼生体の母親、つまりは先程の女性がワン・ダ・バの肉片を摂取したのが原因とみていい。その肉片は長らく 海中に没していて環境に適応していたため、魚類に擬態していた。だが、摂取量が足りなかったために中途半端な 突然変異しか発生せず、幼生体の生命活動に支障を来したのだ」 「ほうか、ほうか」 ハツは数珠を両手の間で擦り合わせてから、赤子の顔に布を被せ直した。 「速やかに葬らねばなるまい」 ゼンは冷たく硬い赤子を抱え直し、袴の裾に尻尾を隠した。 「ほの子で何人目ね、竜の肉片を食ってしもうたせいで体がおかしゅうなって生きられんかったんは」 ハツが憂うと、ゼンは簡潔に答えた。 「二十五体目だ」 「うらの寿命を、ちぃとでも分けられたらええんになぁ」 「それは物理的に不可能だ」 「ほやけど、なぁ……」 ハツは嘆息したが、ゼンに手を差し伸べた。 「ほの子、うらにも抱かせてくれねっか?」 「死んでいるが」 「ほんなん、関係ねって」 ハツはゼンから赤子を受け取ると、優しく抱いて撫でてやった。 「うらの腹から産まれてくりゃあ、ちったぁええ今生を送れたやもしれんね。ほやから、今度はうらの腹から 産まれてこいて。楽しみんしとるっけんね」 「だが、ハツの生殖機能は」 「ほんなんも、関係ねって」 ハツは薄い瞼を伏せ、長い睫毛の先から雨粒とも涙とも取りかねる小さな雫を落とした。 「せっかく産まれてきおったんね、精一杯生きるんが当たり前ね。御仏がお決めになった寿命が、ちぃとばかり短う なってしもうただけね。うらも、ゼンも、この子もなんにも変わらんて。この子はえらい業を背負って産まれてきたかも しれんけど、御仏の御側で修行してまた今生に来おったら、その業を乗り越えた分だけ幸せになれるんね」 ハツはゼンに向くと、赤子と撫でた時と同じ手付きでゼンの腕に触れた。 「ほやから、ゼンも経を上げてくれねっか? うらだけやと、この子の業はどうにもならへんかもしれんね」 「同じ文面を繰り返し読み上げる作業に、これといって意味は見出せないのだが」 「意味はある。あるから、うららは御仏に祈るんやないっけ」 ハツの表情は頑なで、口調は穏やかだが抑えた力が籠もっていた。橋を打ち付けていた雨音が緩み始め、雲の 切れ間から鮮やかな日差しが差し込むと、二人の影が濃くなった。ハツは立ち上がり、ゼンを促した。 「ほな、行こうかの」 「どこへだ」 「決まっとるね、この子を弔ってくれるお寺さんね」 ハツは橋の下から出ると、光の中を歩き出した。白く煌めく光の粒を纏った法衣の黒さが際立ち、濡れた石畳が 艶を帯び、一際太い光条の先には虹が架かっていた。ハツはゼンをもう一度呼んだので、ゼンは腰を上げてハツを 追った。ハツの足取りは慎重で、死した赤子に景色の美しさをしきりに語り掛けている。その行為はゼンは無駄だと 判断して進言したが、ハツに一蹴されていた。斜面を登って歩道に戻った二人を追い掛け、紀乃も駆け上った。 勾玉は再び熱を帯び、じんわりとした温度に乗せて紀乃の心中に伝えてくる。死地にありながらも、道具としての 扱いから逃れられなかったワン・ダ・バは、ゼンを通じて感じるハツの話に感じ入っていた。宇宙怪獣戦艦、もとい、 ヤトゥ・マ・ギーの一族としての自覚がありながらも、宇宙怪獣戦艦になるべくして改造された肉体に抗えない苦悩に 苛まれていた。宇宙の各地で繰り広げられている同種族達の反乱に参加出来ない憤りに心を震わせてもいたが、 地球の環境に浸っていたいという気持ちも混じっていた。どれもこれも嘘ではない、だが、命運と使命と本能のどれが 最も重要かなど決め切れない。だから、ワン・ダ・バはゾゾの亜空間通信を遮断し、ナガームン軍の誰とも連絡が 取れないようにした。自分がどう生きるべきか、決めかねた末の行動だったのだ。 「見よ、あれがハツだ。どうだ、素晴らしく麗しい女だろう。この私のハツなのだ」 竜ヶ崎は紀乃の傍に立ち、光の中を歩くハツとかつての自分を見つめた。 「何言ってんの、そんなわけないじゃん。ハツさんはハツさんで、誰のものでもないよ」 紀乃は竜ヶ崎に言い返して、二人を追うように歩き出した。だが、どれほど歩いても、歩いても、二人の背中には 追いつけなかった。それどころか距離が開き、遠くなっていく。また、どこかの時間に飛ばされてしまうのだろうか。 気付いた頃には景色が一変し、上下が反転し、左右もねじ曲がり、空も地面も遠くなる。それでも尚、竜ヶ崎の気配 だけは全く薄らぎもしなかった。それが紀乃の心を支えてもいたが、どうしようもなく腹立たしかった。 ワン・ダ・バの心中が流れ込んでくる。停滞に対する懸念。本来生きるべき環境から懸け離れた惑星に根付いて しまった、己への嫌悪。意に反して、地球環境に適応しつつある肉体への疑問。宇宙怪獣戦艦として生まれた自己 への不安。それらが複雑に絡み合って、成長途中であるワン・ダ・バの内面に自我を生み出しつつあった。不安定な 人格の中心に据えられているものは、ゾゾとゼンの気配を察知して同族が助けに来てくれないかという淡い期待と、 それに反したゾゾとゼンと地球に対する甘ったるい思い入れだった。 その迷いが、並列空間の時間と空間を捻れさせていた。 11 2/13 |