機動駐在コジロウ




ペインは剣より強し



 黒く分厚い金属板は銀色の拳に抉られ、割れ、砕け散った。
 タイスウの破片は物質宇宙で形を保つために必要なエネルギーをまた別の宇宙に逃がされた影響で、金属板 としての形状を維持出来なくなり、空中を漂う間に脆く崩れ去っていった。黒い金属粉が地面に降り注ぐが、地面に 接する前に一粒残さず消滅した。蓋を失ったこともまたタイスウのバランスを崩したのか、縦長の箱も端から崩れて 粉に変わっていった。程なくしてタイスウが完全に崩壊すると、その場には中に取り込まれていたつばめだけが現存 していた。意識が朦朧としているつばめを、拳を解いたコジロウがすかさず抱き留める。

「つばめ」

「頭、痛い……」

 コジロウの熱した胸部装甲に寄り掛かり、つばめは鈍い痛みが宿る頭を押さえた。脳の最深部で、異物がしきりに 疼いている。恐らく、遺産を通じて異次元宇宙に近付きすぎたからだろう。人間の了見を上回る意識が集合した世界 など、生身の人間が見るべきものではないからだ。
 しばらく、こうしていたい。つばめが一時の安らぎを求めてコジロウの屈強な腰に腕を回すと、突如、周囲の空気 が渦巻いた。かと思った直後、それが壮絶な衝撃波を生み出した。一瞬にして足元の地面が穿たれ、吹き飛んだ 土も草も薬莢も潰れた銃弾も空へと飛ばされた。一体、何が起きたというのだ。
 すると、つばめとコジロウの頭上に黄色と黒の機体が覆い被さってきた。人型重機だ。何事かと見上げると、その 腹部辺りに皆が退避していた。異変を察知した道子が人型重機を遠隔操作し、一時的な避難場所を作ってくれて いたようだった。つばめはコジロウに抱えてもらってから、皆に近付く。

「ねえ、これ、どういうこと!?」

「えーとですね、今、この空間では中性子が発生しています。で、物凄い勢いで崩壊しています。だから、ちょっとでも 外に出ると一瞬で蒸発しちゃうので気を付けて下さいね。これは私の想像に過ぎないんですが、タイスウを構成 していた物質を、コジロウ君がその物質が存在していた異次元宇宙ごと破壊しちゃったので、その余波がちょっとだけ 異次元に来ているんじゃないかと」

 暴風で翻るメイド服の裾を押さえながら、道子が説明してくれた。

「宇宙を? コジロウが?」

 タイスウの中で幻影を見せられていた合間に、そんなことがあったのか。つばめが呆気に取られると、コジロウは つばめの体を持ち上げて人型重機の下半身部分に載せてくれた。続いて、コジロウも人型重機の下半身に載る。 操縦席の割れたフロントガラスには伊織が捕まり、操縦席に昇るためのハシゴに一乗寺と寺坂が捕まり、武蔵野 は右腕の下にある給油ダクトの傍にあるハンドルに捕まっていた。

「何が何だか解らんが、中性子ってことは核兵器並みの破壊力があるのか?」

 武蔵野が自動小銃の銃口で暴風が吹き荒れる外界を示すと、道子は肩を竦める。

「単純計算でツァーリ・ボンバ何百発分、ってところでしょうか。これがフカセツテンの外に出たら、一ヶ谷市どころか 地球がドカンパーですって。私達はつばめちゃんに意識されているおかげで、その影響を受けずに済んでいます けどね。シュユさんの異次元、真っ先に壊さなくて良かったですねー。フカセツテンが物質宇宙とも異次元宇宙からも 隔絶された異次元を内包していなかったら、どっちにも影響が出るのは確実ですもん」

「中性子なんてもん、みっちゃんはどうやって観測してんの?」

 一乗寺が質問を投げ掛けると、道子は頭の横で指を回した。

「この体もちょっといじってありますけど、政府の方々が船島集落の周辺に置いていってくれた多種多様な観測装置を 利用させて頂いているんです。あるものは有効活用しませんとね」

「てぇことは何、この中性子が外に漏れているってことかよ。それってちょっとアレじゃね?」

 寺坂が変な笑いを浮かべると、道子はにんまりする。

「大丈夫ですよー。中性子といっても、異次元における中性子であって物質宇宙に置ける中性子じゃないですから、 フカセツテンの外にボロボロッと零れても放射能なんて漏れませんよ。漏れたとしても、すぐ消えますし」

「そういう問題じゃねーだろ」

 伊織が至って真っ当な文句を言ったので、つばめは同意せざるを得なかった。

「うん、色々とヤバいことに変わりないし。てか、これ、どうやれば収まるの?」

 つばめは途方もない不安に駆られ、コジロウの手をいつになく強く握った。これでは、祖父も祖母も無事では済む まい。こんなことで決着が付いてしまうのか、と思うと一抹の空しさに駆られたが、それはそれでいいのかもしれない とも思った。これ以上、肉親同士で傷付け合うのはごめんだからだ。
 これもまた遺産の産物ならば、どうか願いを聞いてくれ。つばめは中性子の嵐が収まるように腹の底から願って みたが、原子レベルで崩壊したタイスウにはさすがに届かないのか荒れ狂い続けていた。つばめはコジロウと手を 繋いだまま、人型重機の外装に背を預けた。祖父の仕掛けた細工とはいえ、自分の嫌なところばかりを見た。

「コジロウがムジンを割った理由、ミッキーから聞いた。正確には、お父さんがミッキーのお父さんに話してくれたこと をミッキーから又聞きしたってことになるんだけどね」

 成長するつばめを恐れたから、コジロウは自ら感情を捨てた。つばめは居たたまれなくなり、目を伏せる。

「コジロウはずっとコジロウのままだ。パンダのぬいぐるみだった頃のコジロウも、今の警官ロボットのコジロウも、 どっちも私のことを一番に考えてくれるし、なんでもしてくれる。でも、私はそうじゃなくなった。成長したんだからそれ は仕方ないって言うのは簡単だけど、嫌われても仕方ないよね」

「本官は本官だ。そして、つばめはつばめだ」 

 コジロウは暴風に負けない声量で言い切り、つばめの言葉を遮った。

「レイガンドーと岩龍の集積回路として使用されていたムジンを回収、結合、統合し、本官は本来の演算能力を得る ことが出来た。よって、本官は感情と人格と個性に相当する思考のパターンを取得した。三年前の本官が危惧して いた、情緒的な判断によってつばめを忌避する危険性を考慮し、本官は警官ロボットとしての基本人格の維持する ことを決定し、その上でつばめと接している。ムジンに記録されていた数多の情報と記憶を再生した際、非常に興味 深い事例を参照した。レイガンドーは羽部研究員の残留思念と交戦した際、羽部研究員から、機械は成長することは 不可能ではあるが学習は可能だ、との意見を得た。よって、本官はそれを踏まえた自律行動を行っている」

「私の嫌なところ、散々見たでしょ? 甘ったれで意地っ張りで強欲で、そのくせ根性曲がりで」

「それはつばめに限った話ではない。人間が総じて持ち合わせている、基本的な人格の構成要素だ」

「あ、開き直った」

「本官の判断はその表現に値するものではない。本官はつばめの全てを享受せんがため、新たな価値観と主観に 相当する自己判断能力を得る段階に至っている。よって、先程の言葉は開き直りではない」

「だったら、私もコジロウをもっと解らなくちゃならないな。でないと、不公平だ」

「それは道理だ」

「だから、そのためにはこの中性子をなんとかする! で、どうしよう!」

 つばめが力を込めて道子に振り向くと、道子はちょっと考えてから答えた。

「一番手っ取り早いのは、この異次元の中性子と逆の性質を持った反粒子と衝突させて対消滅させることなんです けど、それをどこから調達するかが問題なんです。出来れば、元の分子構造に近いものがいいんですけど」

「なんだ、そんなの。真上にあるじゃなーい」

 一乗寺が得意げに真上を指したので、つばめは天を仰いだ。

「もしかして、フカセツテンのこと?」

「わぁ、良い考えですね! 異次元は外からシュユさんが維持してくれているでしょうから、フカセツテンの外殻だけ 壊せば大丈夫です、ええきっと大丈夫です! 壊す方法はあります、宇宙一の破壊神がここにいますから!」

 道子は手を叩いて喜んでから、コジロウを示した。

「なんでもいいから、さっさと終わらせろよ。でねーと、晩飯までに帰れねぇだろ」

 伊織がやる気なく爪を振り、触角を曲げた。

「じゃ、コジロウ、お願い」

 夕食は何が良いだろう、また鍋だとアレだけど材料があるかな、と考えつつ、つばめはコジロウに命じた。

「了解した」

 コジロウはつばめと向き直り、頷いてみせた。

「フカセツテンを構成している物質が存在している宇宙は、タイスウを構成していた物質が存在していた異次元宇宙 と同等である。よって、タイスウの崩壊による空間歪曲の余波を受け、フカセツテンの分子構造にも異変が及んだ のはまず間違いない。よって、フカセツテンの破壊に要する時間はタイスウよりも短いと判断する」

「すぐに帰ってきてね」

「了解した」

 そして、コジロウは迷いなく人型重機の外に飛び出していった。白と黒の機体は吹き荒れる暴風に飲み込まれ、 掻き混ぜられ、見えなくなった。つばめはその姿を追い縋りかけたが、思い止まって、唇を噛んだ。程なくして頭上 から轟音が上がり、中性子の嵐とは異なる振動が訪れた。人型重機が収まっている球状の空間もぐらつくほどの 振動が矢継ぎ早に発生し、波打ち、つばめは人型重機から滑り落ちかけたが、体が浮き上がった。
 ナユタとアマラとコンガラが、つばめを取り巻いていた。つばめは三つの遺産を抱えると、有りっ丈の感情を込め、 うんざりするほど味わわされた苦痛を注ぎ、願った。フカセツテンを破壊しようと奮戦しているコジロウを助けられる ように、フカセツテンの外に中性子が漏れて無用な被害を生まないように、もう誰も死なないように。ナユタが青い 光を縦横無尽に放ち、アマラが銀色の針の表面に集積回路に酷似した形状の光を走らせ、コンガラが悠長な仕草 で回転する。このデタラメな状況に収拾を付けられるような概念は作れなくても、コジロウを助けられるはずだ。
 暴風を切り裂く、破砕音が響き渡った。途端に細かな光の粒子が風に混じるようになって、三つの遺産が放った 青い光を吸収しては暴風を掻き消していった。コジロウが破壊したフカセツテンの破片に、遺産を通じて具象化した つばめの感情のエネルギーが融合し、中性子とフカセツテンを構成する物質の対消滅を促しているのだ。
 三つの遺産が落ち着いたのとほぼ同時に、暴風はぴたりと止まった。つばめは遺産を抱え、恐る恐る人型重機 の外に顔を出してみた。船島集落は中性子の破壊力で綺麗に消え失せているのだろう、と予想していたのだが、 意外な景色が待っていた。船島集落の姿は跡形もなく消えていたのだが、その代わりに、赤黒い根が隙間なく這い 回っていた。寺坂の触手、長孝の肉体、シュユのアバター、いずれにも酷似している。

「これって……」

 つばめは一際太い根に足を下ろし、辺りを見回すが、どこを見ても根しかなかった。巨大な樹木の根元に来たか のような錯覚に陥るが、そうでないことはよく解っている。地面だった場所の土は一欠片も残らず消滅しているが、 地面と同じ形に根が複雑に絡み合っていて、縦長の楕円形の地形を保っている。つばめに続いて外に出た皆は、 辺りを見回したが、異なる反応をした。一乗寺は笑い、寺坂は舌打ちし、伊織は首を捻り、道子は驚き、武蔵野は 辟易していた。つばめは悪夢のような極彩色の光景に息を詰めながら、根が生えている根源を目で追っていくと、 斜面に向かっていた。土も草も何もかも失せているが、地形は同じだから見間違えようがない。
 フカセツテンの残滓である粒子と、ニルヴァーニアン特有の赤黒い体色を帯びた植物と、外殻を失った異次元の 先にある物質宇宙に降り積もった雪の白さが、その儚げな薄紅色を引き立てていた。
 あの、桜の木が在りし日の姿のまま、立っていた。雪片よりも薄い花弁がまばらに降り注ぐ樹下に、一人の男が 場違いな面差しで立っていた。二十代後半と思しき年頃の男が、至福の極みと言わんばかりの晴れやかな笑顔を 浮かべている。アイロンの効いた白のカッターシャツにダークグレーのスラックスを身に付け、艶々に磨かれた革靴 を履いている男は、銀縁のメガネを掛けた顔でつばめを見咎めた。

「ようやくお会い出来ましたね、つばめさん」

 外見に見合った若々しい張りのある声で、男は言った。

「まさか」

 つばめが身動ぐと、男は手首に巻いた銀色のチェーンを掲げてみせた。小さな水晶玉が下がっていた。

「最初にお会いしたのは、私の葬儀でしたかね。あの時は遺産に関わるべきではないと御忠告いたしましたのに、 聞き届けて頂けませんでしたね。見れば見るほど、ひばりさんによく似ていらっしゃいます」

 ずくん、と心臓が肋骨を砕きかねない力で跳ねた。つばめはコンガラに爪を立て、息を止める。

「本当に、よく」

 かつて、吉岡りんねが掛けていた銀縁のメガネの奥で、男は弓形に目を細める。つばめの脳裏に、四月の初旬に 初めて目にした祖父の顔が過ぎる。体格、骨格、目鼻立ち、表情。あの写真から五十年分の年月を差し引いて、 息吹を与えれば、この姿になる。口腔が干涸らびたつばめは、上顎に貼り付きかけた舌を剥がし、動かす。

「お爺ちゃん?」

「ええ。その呼び名に値する血族ですとも。アソウギとラクシャを用いて、新たな体を得たばかりですけどね」

 佐々木長光の意識を宿した若い男は、つばめをねっとりと眺め回す。

「あなたは、ひばりさんの胎内で人間としての形を成す前から、クテイに愛されておりました」

 両手を広げ、男は胸を張る。

「あなたが無事産まれることを願って止まず、私の元から逃亡を図ったほどでした。そのせいで、クテイは十六進法 に則って完成された美しい肉体を欠損してしまったばかりか、その触手を右腕を欠損した善太郎君に移植するという 蛮行に及びました」

 つばめの左右で武蔵野と一乗寺が銃口を上げ、連射したが、男は動じずに語り続ける。

「そればかりか、あなたは愚息が我が家から持ち逃げしたムリョウとムジンを無自覚に利用し、クテイに私ではない 人間の感情の味を覚えさせてしまいました」

 この野郎、と叫んだ寺坂が根が組み合わさった地面を駆け抜け、法衣の袖を切り裂きながら仕込みナイフを展開 する。サイボーグの脚力を用いて高々と跳躍した寺坂が斬り掛かるが、男はおもむろに右手を挙げ、人型昆虫の 頭部で寺坂の刃を遮った。備前美野里の頭部だった。その盾に寺坂が一瞬怯んだ隙に、男は寺坂の右腕を掴んで 関節を極め、呆気なくへし折った。

「それきり、クテイは外の世界に興味を持つようになってしまいました。この世界にクテイの存在を許しているのは他 でもない私であり、私こそがクテイの中心であるべきであり、クテイは私以外の存在を認識するべきではないのに、 クテイはあなたを欲し続けているのです。愚息がクテイにあなたの成長を定期報告するたびに、クテイはあなたの 私物を無意味に買い込んでは溜め込んでおりました。勉強机に通学カバン、教科書やノート、長靴にスキーウェア、 枚挙に暇がありません。だから、私はクテイが欲して止まないあなたを差し出そうと決めました。クテイがあなたの 味を存分に楽しめるように、下拵えをし、包丁を振るい、皿を用意して」

 ワンテンポ遅れて桜の木に到達した伊織は、右腕をねじ切られた寺坂の襟首を掴んで無造作に後方に放ると、 しなやかに上両足を曲げる。その爪は男のカッターシャツの襟を切り裂いたが、皮膚までは裂かず、空しく繊維 が飛び散っただけだった。男は寺坂の右腕を上げ、伊織の胸と腹部を繋ぐ膜に仕込みナイフを突き立てた。

「どうです、楽しかったでしょう? あなたは私が遺した財産と、クテイが遺した遺産と、ひばりさんが遺した無念と、 愚息が擦り付けた業で形作られた、哀れで脆弱で嘆かわしい肉人形なのですよ。私が用意して差し上げた盤上で 踊る様は、見ていて本当に馬鹿馬鹿しかったです。ああ、こんな泥細工がクテイの好物なのかと。そう思うと、尚更 クテイが哀れでなりませんでした。清潔で正常で静謐なものが、クテイの食事には相応しいというのに」

 発声スピーカーが音割れするほどの怒声を上げた道子が人型重機を急速発進させ、男の頭上に突っ込ませる が、男は避けようともしなかった。直後、人型重機は男の真横に墜落し、ガソリンに引火して爆発する。だが、男は 無傷で無反応だった。男の切り揃えられた髪が靡き、黒煙を伴った影が揺れる。

「ですが、いかなる俗な愚物であろうとも、磨き上げればそれなりに輝きます。切り分ける部位が良ければ、原種の 生物ですらも極上の美味となります。あなたの感情が最も凄絶に滾り、命が輝けば、クテイは満たされましょう」

 白と黒の機影が高圧の蒸気を噴出しながら男に迫る。コジロウは躊躇いなく男に拳を振り下ろすが、やはり、男の 肉体に触れられなかった。コジロウは僅かに身動ぐも、男に絶え間なく打撃と蹴りを繰り出すが、空中に舞う枯れ葉 のように避けられてしまう。男は左手を掲げ、その手中から緑色の粘液を零し、足元に転がる死骸に滴らせた。

「ですから、食材となることで贖罪を果たして下さいませんか。我が孫よ」

 コジロウの銀色の拳が男の毛先を掠めた、その瞬間、男の足元で息絶えていた彼女が蘇った。コジロウが咄嗟 に上体を翻してそれを掴もうとするも、コジロウの手足に赤黒く太い根が絡み付いてきた。他の面々も同様で、一拍 と置かずに拘束される。爪先で根を弾いて自身を発射した美野里の爪は、生温い春の空気を裂き、そして。
 コジロウに間接的に殴られた時よりも数倍重たい衝撃が及び、つばめは背を曲げる。喉から迫り上がった鉄臭い ものが口から噴き出し、胸元を生温く濡らす。ばちんっ、と裁ちバサミのように黒い爪が曲がり切ると、肋骨の破片 と共に肉片が切り落とされる。つばめの握り拳よりも一回り小さい肉塊、紛れもない心臓だった。焦点が定まらなく なった目で己の心臓を認識したつばめは、浅く息を吸ったが吐き出せず、仰け反った。
 動脈から迸った鮮血が、大きく弧を描いた。





 


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