ドラゴンは眠らない




魔導戦隊ジンガイジャー 前



翌日。駅前広場にあるフルーツパーラーに、三人が座っていた。
オープン席の、オレンジ色のパラソルが差してある丸いテーブルを囲んで、それぞれでパフェを食べていた。
黒いワンピースを着たフィフィリアンヌと、デニムのジャケットと白いシフォンのスカートを着たフィリオラ。
そして、グレーのスーツ姿のレオナルドが一つのテーブルを囲んでいたが、その上にはフラスコもあった。
赤紫の粘液、伯爵の入ったフラスコである。ガラスの球体の内側で、伯爵は時折、気泡を吐き出していた。
レオナルドは目の前のグラスに半分以上残っているチョコレートパフェを見ていたが、ぐったりしていた。
半分も食べたら、胸焼けがした。上に載っていたブラウニーと生クリームが重たく、胃にずしりと来ていた。
口の中に残ったチョコレートソースとバニラアイスの味を流すべく、グラスを取り、冷たい氷水を呷った。
向かい側に座るフィリオラは、にこにこしながらキャラメルバナナパフェを食べていて、残りは三分の一だ。
その隣に座っているフィフィリアンヌも、黙々と抹茶あずき白玉パフェを口へ運び、既に半分は食べ終えている。

「よくもまぁ…」

レオナルドは、口の端にクリームを付けながら食べ続けているフィリオラを眺めた。

「こんなに甘ったるいものを喰えるもんだな」

「えー、おいしいじゃないですかぁ」

細長いスプーンを口から出したフィリオラは、パフェに突っ込み、クリームの絡んだコーンフレークを掬う。
フィフィリアンヌは、粒あんと抹茶クリームが重ねられた層まで辿り着くと、それらを掬い取って口に入れた。

「うむ。旨いではないか」

「昨日、あれだけケーキ喰ったってのに…。胃もたれしても知らんぞ、オレは」

レオナルドはチョコレートパフェのグラスを、テーブル中央に押し出した。フィリオラは、そのグラスを引き寄せる。

「レオさんのも、ちょっと食べていいですか? そっちのもおいしそうです」

「喰ってくれ喰ってくれ。オレはもう喰えん」

レオナルドが手を横に振ると、わぁい、とフィリオラは歓声を上げた。

「ありがとうございます、レオさん」

フィリオラはますます上機嫌になり、自分のキャラメルバナナパフェとチョコレートパフェを交互に食べている。
フィフィリアンヌは自分のパフェの大半を片付けて一息吐くと、氷水を飲んでから、駅前の雑踏を見渡した。
テーブルの上のフラスコの中では、伯爵がごぼごぼと泡立っている。彼から感じられる魔力は、減退していた。
昨夜、地下室から飛び出していった伯爵は、深夜になった頃、魔力も肉体も大分消耗した姿で戻ってきた。
何をしていたのか、と尋ねたが、伯爵は高笑いしながらこう返してきた。明日になれば解るのである、と。
よって、フィフィリアンヌら三人は、伯爵の行った悪事の結果を見るべく、駅前でパフェをつついていた。
というのはあくまでも建前で、本音は、フィリオラがパフェを食べたがったのでそれに付き合っているのだ。
イチャイチャ禁止令がまだ解けていないレオナルドは、生殺し状態である上、フィフィリアンヌまでもがいる。
それでも、距離があるよりも近くにいた方がいい、とのことで、フィリオラらに同行してパフェを食べていた。
今日は日曜日なので、駅前の人通りは普段よりも多く、制服姿ではない学生達がはしゃぎながら歩いている。
三人、実質的には四人がいるフルーツパーラーの反対側の通りでは、ギルディオスがぼんやりと立っていた。
天気が良いので、近所の子供、ブラッドを連れて散歩に出てきてみたら、敵幹部と怪人達を見つけてしまった。
車やバスが通り過ぎていく駅前ロータリーの向こう側にいる彼らを見つめていたが、一向に変身する気配はない。
あの三人の誰か一人でも、怪人としての姿を晒してくれれば問答無用で戦えるのだが、今はそうはいかないのだ。
ギルディオスは、それを言おうと思い、足元の少年を見下ろした。彼から、変身してくれ、と言われたのだ。
ブラッドは、期待に目を輝かせている。わくわくした様子で、ギルディオスのジャケットの裾を引っ張った。

「なぁ、おっちゃん! 変身してくれよ!」

「だーから、変身なんてむやみやたらにするもんじゃねぇんだって。エネルギーの無駄なんだよ」

ギルディオスが首を左右に振ると、ブラッドは不満げにする。

「けどさぁ、あそこに敵がいるじゃん。どっちも正体バレバレなんだから、先制攻撃しても良くね?」

「そりゃ、ばれてるかもしれねぇけど、何もしていない悪役を袋叩きにするのが正義の味方なのか?」

「よくやってるよ、色んなヒーローが。特に戦隊ヒーローが」

さらりと言ったブラッドに、ギルディオスはがりがりとヘルムを掻いた。

「まぁ…そりゃあ、なぁ…」

「あ?」

ふと、ブラッドが振り返った。ギルディオスも妙な気配を感じたので振り返ると、その先には自動販売機があった。
ジンガイジャーの認知度を高めるべく作ったポスターが貼られてあるが、それ以外は至って普通の自動販売機だ。
二人が顔を見合わせていると、悲鳴が聞こえた。辺りを見回すと、別の自動販売機の前で女性が倒れている。
その足元には、蓋を開けたばかりの炭酸飲料の缶が転がっていたが、その口からは粘っこいものが溢れていた。
ギルディオスはブラッドともう一度顔を見合わせてから、フルーツパーラーに向くと、スライムが高笑いしていた。

「はっはっはっはっはっはっは! これこそ我が輩の美しき所業、麗しき悪事なのであるぞ!」

途端に、自動販売機という自動販売機が内側から壊れ、缶が破裂し、赤紫の粘液がでろでろと流れ出してきた。
その粘液を踏み付けた人や、今し方開けようとしていた缶ジュースが破裂して、もろに浴びてしまった人もいる。
駅前は、一瞬にして阿鼻叫喚と化した。悲鳴が飛び交い、逃げようとして粘液で転び、ひどいことになっている。
ギルディオスは、逃げ惑う人々の間からフルーツパーラーを睨むと、フラスコの中からスライムが飛び出した。
スライムは地面に広がった粘液の中に飛び込むと、それらを寄せ集めて体を成し、大柄な人間型となった。
ギルディオスは赤いジャケットの袖を捲り上げ、拳を固める。人型のスライムと睨み合うと、力強く叫んだ。

「現れたな、粘液怪人伯爵!」

「そこまで言ったのであれば、きっちりゲルシュタイン・スライマスと言ってほしいものである」

人型のスライム、伯爵は、戦う気満々で腰を落としているギルディオスに向き直る。

「なんだかんだで戦いたいのではないか、貴君は」

「まぁな。それが本職だからよ」

ギルディオスは拳を手のひらに叩き合わせ、内心でにやりとした。すると、ジャケットの裾がまた引っ張られた。

「おっちゃん、皆に連絡しないの? ほら、敵の方が人数が多いし。あっちは四人じゃん」

「あいつらぐらい、オレ一人でなんとか出来ると思うんだが」

ギルディオスがブラッドを見下ろすと、少年は首を横に振る。

「そんなことを言う奴に限って、必ず叩きのめされちゃうんだよ。だから、連絡しとかなきゃ」

「面倒くせぇなぁ」

ギルディオスはぼやきながら、ジャケットのポケットを探ってジンガイフォンを取り出し、フリップを開けた。
秘密基地の電話番号を押そうとしたが、どうやって操作するのかまるで思い出せず、指を動かせなかった。
しばらくジンガイフォンを睨んでいたが、荒っぽくフリップを閉じ、パフェを食べているフィリオラらを指した。

「あーもう、じれってぇ! オレが全部片付けりゃ済むことだろうが!」

「使い方忘れたなら言ってくれよ、逆ギレする前に」

貸して、とブラッドはギルディオスの手からジンガイフォンを取ると、手早く操作して耳に当てた。

「キャロル姉ちゃん? うん、オレ。敵。駅前。ああ、うん、いるよ、ギルのおっちゃん。えー、あ、うん、そうそう、また逆ギレしたんだよ、携帯の使い方を忘れちゃって。簡単なのになぁ、そんなの。あー、うん、解った。ダニーさん達はもう少ししたらこっちに来るんだね。解った、伝えとくー」

電話を終えたブラッドは、ギルディオスの手にジンガイフォンを戻した。

「はい、おっちゃん。ダニーさん達、近くにいたからすぐに来るって。今度、メールの打ち方も教えてやるよ」

「すまん、ラッド」

強烈に情けなくなって、ギルディオスは肩を落とした。いつまでたっても、携帯電話の使い方だけは覚えられない。
ギルディオスが自己嫌悪に陥っていると、ブラッドに小突かれた。顔を上げると、伯爵が目の前に立っていた。

「ニワトリ頭よ。貴君はやる気があるのかね、ないのかね」

「最近の機械に付いていけないのって、やっぱり、オレももうトシなのかなぁ…」

ほう、と力なくため息を零したギルディオスに、伯爵は上体を逸らして笑った。

「はっはっはっはっはっはっは! ギルディオスよ、貴君は気だけが若いが他の部分はまるで若くないのである! 今更そのことに気付いたのであるか、このニワトリ頭め!」

伯爵は、未だにパフェを食べ続けている竜の少女達に振り向くと、彼女達の元に駆け戻った。

「さっさと貴君らも変身せぬか! というか、いつまで食べているのであるか!」

「だって、残したらもったいないじゃないですか。パフェっていい値段するんですよ」

フィリオラは、ほとんど空になっている二つのグラスを名残惜しげに見ていたが、ようやくスプーンを置いた。
フィフィリアンヌはグラスの底にあった白玉だんごを食べ終えてから、一息吐き、口元を拭ってから立った。

「そうだぞ。食い物を無駄にしてはいかん」

「間違っちゃいないが…」

レオナルドは呑気な二人を横目に見ていたが、手を出した。他の三人も、同じように手を出して円陣を組む。
何をするのかとギルディオスが思っていると、フィリオラは元気良く、聞き慣れたあの掛け声を上げた。

「さーいしょはぐー!」

その声と同時に、四人の手が出された。するとその手は、一人を除いて、全員がパーの形になっていた。
一人、素直にグーを出したレオナルドが固まっている。フィリオラはにこにこしながら、彼の肩を叩く。

「それじゃ、今日の爆発当番はレオさんですね。派手に吹っ飛んで下さいねー」

「馬鹿か貴様は。パーと言ったらフェイントでグーを出すのは基本だろうに」

平然と言い放ったフィフィリアンヌに、レオナルドはグーの手を下げた。

「どこまで捻くれてるんですか、あんたらは」

「それでは、次は巨大化する輩を決めるのである」

伯爵が言うと、レオナルドを除いた三人はまた円陣を組んだ。今度は、フィフィリアンヌが掛け声を出した。

「さーいしょは」

「ちょっきんなー!」

訳の解らない言葉を叫んだ伯爵に釣られて、フィリオラは思わずチョキを出してしまってから、気付いた。
フィフィリアンヌと伯爵の手は、グーになっている。先程とは方法は違うが、フェイントには違いなかった。
フィリオラはチョキの形になっている自分の手を忌々しげに見下ろしていたが、レオナルドに肩を叩かれた。

「まぁ、頑張れ。巨大ロボとやり合って吹き飛ぶだけなんだから楽なもんだ」

「…うぅ」

フィリオラは悔しげに呻いていたが、手を下ろした。レオナルドは、悪気の欠片もない二人に目をやった。
フィフィリアンヌはしれっとしているし、伯爵に至っては、目も鼻も口もないので表情がまるで解らない。
たかがジャンケンでも平気で騙し討ちをするこの二人は、本当に悪役に相応しいよな、と思ってしまった。
レオナルドはスーツのジャケットを脱ぎ捨てると、拳を突き上げて魔力を高め、威勢良く声を張り上げた。

「邪竜変身!」

「邪竜変身!」

レオナルドの掛け声の後、フィリオラとフィフィリアンヌも拳を高く突き上げて、彼と同じ言葉を叫んだ。
激しい閃光が三人を包んだかと思うと爆ぜ、きらきらと粒子が散る。その向こうに、異形となった三人がいた。
赤い装甲服に身を固めたレオナルドは、腰に提げていた剣を引き抜くと振り翳し、空を切り裂いた。

「火炎怪人、レオナルド!」

ツノが長く伸びて瞳が赤くなり、翼を生やして両手両足を竜に変化させたフィリオラは、身構えた。

「邪竜乙女、フィリオラ!」

黒いワンピースではなく、黒いレザーの服に着替えたフィフィリアンヌは、二人の前に歩み出た。

「邪竜魔女、フィフィリアンヌ!」

伯爵は、両腕を広げた変な構えを取った。

「そして、粘液怪人、ゲルシュタイン・スライマス!」

四人は一歩前に踏み出ると、それぞれが微妙にカッコ悪いポーズを付けた。

「我ら!」



「悪の秘密結社、ダークドラグーン!」



四人の叫びが消えた頃、ギルディオスはぽつりと呟いた。

「うん。お前らの名前も役職も組織の名前も、全部解ってるから。別に言わなくてもいいと思うぜ、それ」

「あーもーいやー!」

フィリオラは両腕で体の前を隠すとしゃがみ込み、翼で体を覆った。

「恥ずかしいです、この口上! やりたくないけど条件反射でやっちゃいますー!」

「キースの馬鹿に、うんざりするほど練習させられたからな」

フィフィリアンヌは頭痛を堪えるように、こめかみを押さえる。レオナルドは、兜をぐいっと押し上げる。

「そんなにやりたいなら自分だけでやればいいものを、オレ達に押し付けやがって」

「全くである」

伯爵は逞しく筋肉の張り詰めた太い腕を組み、ぶるりと体を震わせる。

「まぁ、どうせ一時の気紛れであろうから、キースが飽きてくれるのを待つしかないのである」

「大変だね、フィオ姉ちゃん」

ブラッドが同情すると、フィリオラはこっくりと頷いた。

「はい…」

「だが、こうして変身した上に口上を述べてしまったからには、悪事を行わねばならん。それがお約束だ」

フィフィリアンヌは編み上げブーツの紐を結び直してから、スライムの散らばる道路に踏み出る。

「我らダークドラグーンの目的はただ一つ、個人的になんかムカつくものを破壊することなのだ!」

「偉大なるキース様から与えられたこの力、使わないわけにはいかない!」

嫌々ながら、レオナルドはフィフィリアンヌに続けた。フィリオラは気を取り直し、立ち上がった。

「ですから、小父様、じゃなかった、ジンガイジャーさん。ケガをしたくなければ、邪魔をしないで下さいね!」

「だが、邪魔をするというのであれば、我が輩達は貴君らジンガイジャーと戦うまでである!」

ぐにゅりと拳を握り締めた伯爵に、ギルディオスは内心で変な顔をした。そんな理由で、悪事を行わないでほしい。
説明しよう! 悪の秘密結社ダークドラグーンは、キース・ドラグーンによって作られた、邪悪なる組織である。
その力の強大さ故に封印されていたキースを、その姉であるフィフィリアンヌが目覚めさせたのが発端なのだ。
数百年の眠りより目覚めたキースは、時代の移り変わりによって変化した世界を嘆き悲しみ、その破壊を望んだ。
そしてフィフィリアンヌは、自分の血を受け継いだドラゴンの末裔の女子高生、フィリオラを仲間に加えた。
以前は普通のスライムであった伯爵は、キースの持つダークドラゴンパワーを浴び、人型になれるようになった。
捜査一課の刑事、レオナルドは、恋人であるフィリオラを救い出すべく近付いたが、逆に取り込まれてしまった。
見ての通りの烏合の衆だが、それぞれの持つパワーは侮れないぞ。必殺の合体技は、ダークドラゴンアタックだ。

「なんですか、そのダークドラゴンアタックって。私達、そんな技を使ったことありましたっけ?」

フィリオラがきょとんとすると、レオナルドは慌ててその口を塞いだ。

「そういうことを言うな! また、あの無駄な説明が入ってしまうぞ!」

説明しよう! ダークドラゴンアタックとは、ダークドラグーンの幹部四人のパワーを集めて放つ強力な技だ。
フィフィリアンヌの魔法、フィリオラのドラゴンパワー、レオナルドの念力発火能力、ゲルシュタインの毒粘液。
その全てを集結させたダークドラゴンアタックを放てば、74式戦車だって、一撃で粉砕出来てしまうぞ。

「例えが具体的なんだか具体的じゃないんだかよく解んねぇ」

ブラッドは腑に落ちない表情をしていたが、ギルディオスが振り返ったのでその方向に振り向いた。

「あ、やっと来た」

駅前商店街の通りを塞いでいる、逃げ惑っている人々を押し退けながら、ダニエルとフローレンスが現れた。
商店街のアーケードの上を駆けてきた銀色の骸骨は、イィヤッホォオオ、と叫びながら駅前広場に飛び降りた。
ダニエルが掻き分けた人々の間を、のんびりとした足取りのヴェイパーが通り、駅前広場にやってきた。
四人が甲冑の背後にやってきたので、ブラッドはギルディオスから離れ、程良く距離を開けた場所に立った。
あまり近くにいると彼らの戦闘に巻き込まれてしまうし、結果として面倒なことになってしまうからだ。
ギルディオスはジンガイフォンのフリップを開くと、ボタンの中心に埋め込まれている魔導鉱石を押した。

「よし! 変身だ!」

「おう!」

背後の四人は一斉にジンガイフォンを開くと、ジンガイフォンを頭上に掲げてから胸の前で腕を交差させた。

「人外変身!」

五人はジンガイフォンから放たれた光に包まれ、弾けた。すると、全員が似たようなスーツに着替えていた。

「赤き灼熱の人外!」

甲冑の上に無理矢理スーツを着込み、白いマフラーを首に巻いたギルディオスは背中から剣を抜く。

「ジンガイレッド!」

「あおき、はがねの、じんがい!」

ただでさえいかついボディに青い装甲を付けたヴェイパーは拳を突き出し、どしゅう、と蒸気を噴き出した。

「じんがい、ぶるー!」

「緑のイカしてイカれた人外ィイイイイッ!」

背中のマントが緑色に変わったアルゼンタムは、前傾姿勢になり、大きな両手を広げる。

「ジンガイグリィイイイイン! オゥイエェエエエエエ!」

「黄色の華麗な人外!」

黄色の全身スーツを着て、顔全体をバイザー付きヘルメットで覆ったフローレンスが腰に手を当てる。

「ジンガイイエロー!」

「黒き異能の人外!」

フローレンスと似たデザインの黒い全身スーツとヘルメットを付けたダニエルが、敬礼をする。

「ジンガイブラック!」

ギルディオスを中心にした五人がポーズを決めると、背後で大爆発が起き、五色の煙が散った。



「魔導戦隊、ジンガイジャー!」



辺りには、もうもうと煙が立ち込めている。彼らの色に合わせた色の煙が、スライムの散る道路の上を流れた。
爆心地のすぐ手前にいたジンガイジャーの五人は、まともに煙を吸ってしまったのか、激しくむせている。
レオナルドは、多少は起きていたやる気がどんどん失せていくのを感じた。こんなヒーローは相手にしたくない。

「今のうちに、ダークドラゴンアタックでも仕掛けてみるか?」

「間違いなく、全滅すると思うのである」

伯爵が言うと、フィフィリアンヌは、ちぃ、と小さく舌打ちをした。

「どうせなら、変身している最中にそのドラゴンアタックとやらを試してみるべきだったな」

「ダメですよー、そんなことしちゃ。変身と合体の最中は攻撃しちゃいけない、というのがお約束なんですから」

フィリオラはそうは言いつつも、三人の言うことはもっともだと思った。その方が、遥かに効率が良いはずだ。
怪人は人間を超越した存在なのだから、変身前のヒーローを襲って殺してしまえば、簡単に打ち倒せるだろう。
なのに、テレビの中の怪人達はそれをやろうとしない。フィリオラは、怪人は実はいい人なのかも、と思った。
煙が落ち着くと、五人の呼吸も大分落ち着いてきた。ぐえっほ、と盛大にむせてから、ギルディオスは手を翳す。

「もー、ちょい、待って。もうちょい」

「フローレンス! だから言っただろう、こんな特殊効果はいらないと! 経費と手間と時間の無駄だ!」

ダニエルがフローレンスに抗議すると、フローレンスはげほっと咳き込んでから言い返す。

「だってぇ、戦隊ヒーローの登場って言ったら大爆発じゃんかー。解ってないなぁ、副隊長は」

「オゥイエー…。苦ゥルシクッテェ、涙ァ出チマッタァゼェエエエエー…」

がふっ、ともう一度咳をしてから、アルゼンタムはぎしぎしと仮面の目元を擦った。ヴェイパーは頷く。

「うん、けむり、すうの、つらい」

「そろそろいいですか、皆さん?」

フィリオラがおずおずと尋ねると、ギルディオスは頷いた。呼吸を整えてから、口元を拭い、肩を上下させる。
思い掛けず、煙でかなりむせてしまったので、苦しかった。だが、ここまで来ては戦わずにはいられない。
えーと、と口上を思い出してから、バスタードソードを構えた。変身後のものなので、剣に装飾が増えている。

「人であって人でなく、人を超えた人であり!」

「ひとでなくても、ひとをまもり!」

ヴェイパーは、両の拳を振り上げる。その隣で、アルゼンタムが絶叫する。

「人ジャネェ奴らの悪事をブッタ切ルゥウウウウウウッ!」

「地球を守る、正義の味方!」

フローレンスが叫ぶと、その後にダニエルがやけっぱちな態度で叫んだ。

「それが、我らジンガイジャーだ!」

「オレ達が来たからには、これ以上の悪事は許さねぇぞ、ダークドラグーン!」

言っていて恥ずかしくなっていたが、ギルディオスは言い続けた。言わなければ、事が進まないのだ。
フィフィリアンヌも、正直なところはやりたくなかったが、仕方ないのでギルディオスに言い返した。

「ニワトリ頭のくせに、この私達と戦おうというのか。面白い、受けて立とうではないか!」

「はっはっはっはっはっは、我が輩達と貴君達の格の違いを思い知らせてやるのである!」

高らかに笑い、伯爵はぐにゃりと体を変化させた。屈強な肉体に赤紫の分厚い装甲が現れ、強化される。

「お前達などに構っている暇はないが、どうしてもやると言うのならば仕方ない!」

レオナルドは手を上向けて、その上に炎を出現させ、握り潰した。フィリオラは、ばさりと翼を広げる。

「さあ、どうやってお料理してあげましょうか、ジンガイジャーの皆さん!」

正義と悪が対峙している駅前広場には、休日の喧噪ではなく、戦闘前の張り詰めた緊張感に満たされていた。
それを離れた位置から見ているブラッドは、わくわくしていた。どんな戦闘が始まるのか、楽しみで仕方ない。
両者は真剣な顔付きで睨み合っていたが、ギルディオスが前に踏み出すと、フィフィリアンヌも踏み出した。
さあ、戦いだ!




突如街中に現れた、悪の秘密結社ダークドラグーン!
粘液怪人ゲルシュタイン・スライマスによって、日曜日の平穏と自動販売機は破壊されてしまった!
果たして、ジンガイジャーは、ご近所と地球の平和をダークドラグーンの魔の手から守れるのか!
戦えジンガイジャー、負けるなジンガイジャー、僕らの味方、正義の人外!


魔導戦隊ジンガイジャー!


to be Continued.....





 


06 5/11